カウントダウン0

車内でどのくらいであろう。電話かけて、ちょっと待ってみるか?って思った瞬間から数秒だと思う。

 

彼女のお母さんから携帯に電話が入った。

物凄く慌てた電話で今すぐ、

兎に角◯◯の救急まですぐ来て。彼女の名前

◯◯が車に跳ね飛ばされて、病院に運ばれた。とにかく来て。

 

頭の中が真っ白だった。何も病院までのどんな走りで急いだのかも覚えていない。多分速度違反してしまったであろう。他人にも迷惑になるような運転してしまったであろう。それすら記憶がないほど必死で向かった。

 

彼女は手術が終えており、眠っていた。面会謝絶のICUの個室で沢山の機材につながっていた。

 

家族の人に中に入れてもらい、必死で名前を叫んでしまった。その時目が開いて、最後の会話が、自分の夢に向かって頑張ってねぇあたし待ってるから。って言われた。

 

その頃、友人の影響もあり、静岡県警察官採用試験に向けて頑張ってみると言う気持ちがあった。お客さんの事故現場に何回か行った時に、この事故は防げないものなのかとちょくちょく思い始めて、警察官を目指そうと夢が少し変わっていた。彼女にも賛成されていたので、応援してくれていた。

 

あっという間だった。個室の外に出されて、1時間後、彼女はそっと静かにいつも見せたことのない、冷たい、何も知らない前の別の私が知らない彼女になっていた。俺は泣きすぎて頭痛と自力で立つことが出来ないほど、泣いて泣いて悔やんだ。ご両親に私の車にバックを取りに行くのを手伝ってもらい、婚約指輪を彼女に渡したいと伝えた。ご両親は賛成してくれた。

 

グタグタのプロポーズだったが、変わり果てた彼女の手を握り伝えた。手には、道路と擦れたであろう擦り傷が腕に向かってあり、打撲の皮下出血なのか?傷に耐えた彼女が横たわっていた。顔には化粧で隠しきれない傷が。

 

どうして、今日なんだ。どうして彼女を連れ去ったんだ。

病院を出た頃には翌日の夜明けの光がうっすらと見える時間であった。

 

確か4時30頃だった。彼女といっぱい話をした。これまでもいっぱい話して笑って怒って、互いに良い時間を過ごしてきたが、辛い時間を過ごしたのは、お互いが一緒にいてはじめての時間であった。

 

7時頃には所長から電話が入った。どうだった?オッケーもらえたかぁ〜と明るい声だったが、私にその元気はなかった。一言、彼女は居なくなってしまったと、答えた記憶がある。

 

所長は何言ってるかわからんけど、出社したら教えてくれと言われたが、無断欠勤してしまった。その日の昼頃、寮にも居ないので、実家に連絡が入り、所長が私の実家に訪問した。

 

私は病院から帰ってきて、自分の両親には伝えた。あらいざらい。両親は何も言わずに静かに受け入れてくれた。

 

所長が自宅に来た時も、私が説明する前にある程度先に私に会う前に全ての内容を伝えてくれた。

 

私はこの日を境に、車も見るの売る事が嫌いになってしまった。

 

彼女のご両親から通夜と葬儀の連絡があったが、無理せず、自分が受け入れられるようになったら、いつでも良いから、彼女◯◯に手を合わせに会いに来て下さいとご配慮頂けました。

 

所長からは、一旦離れて自分の時間にゆっくり時間を使ったほうがいいと言うことで、退社をした。

 

彼女のご両親からでしたが、跳ね飛ばした運転手は飲酒運転だったとのこと。今では重罪であり、物凄く刑事罰が重くなったが、この頃の服役は今に比べれば軽すぎる刑期だった。

 

人生やこの世の中の全ての意図が白黒の色になった色をしていた。ドラマや映画のような色だった。色が消えた。